ボルネオ島、ジャングルの中にあるダガット村での生活・文化・生き物などについて書いてみます

カンポンライフ @ ダガット村

ヒゲイノシシ / Sus barbatus/ Bearded Pig at Kg. Dagat, Borneo

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ヒゲイノシシ (Sus barbatus)

更新日:

和名 : ヒゲイノシシ

学名 : Sus barbatus

英名 : Bearded Pig

マレー名 : Babi Hutan (森のブタ)

サバ名一般: Bakas

夜中に目を覚ますと聞こえてくる高床式の家の下から聞こえるフガフガとした声、ガサゴソと食べ物を漁る音。

ヒゲイノシシはサバ州で一番よく見かける偶蹄類だと思います。

夜な夜な出てきてはなんでも掘り起こし、食べられるものは食べてしまうことから村では専ら害獣です。ダガット村においてはキャッサバやヤム、サツマイモのような芋は勿論、サトウキビ、バナナの苗、ココヤシの苗、パイナップル、ショウガ等はイノシシに荒らされるため、多くのカンポン(村落)で育てられている作物を育てることができません。これら以外の例えば果物の苗やツーリストによる植林された苗も掘り返してしまいます。掘り返された苗は根に直射日光が当たり、そのまま放置するため枯死してしまいます。1日でも見逃せばアウトです。

とはいえ、しっかりと対策をしてやれば作物を植えることはできないこともないのです。テツボクで支柱を作り、トタンで囲ってやればイノシシ相手には一定の効果があります。ただ、これらの作物は定期的に村を訪れるボルネオゾウにとっても大好物です。世界一小さいゾウとはいえ、戦車のようなゾウ相手ではどんな対策も無駄で、追い払うのも命がけです。ゾウ達は村に居座っても数日なので、徹夜をすれば作物を守ることは出来ます。夜な夜な出てくるイノシシと定期的にやってくるボルネオゾウの群れ、そのコンビネーションで作物を植えるハードルがかなり高くなっています。

作物だけではありません。凶暴なイノシシは鶏も食べてしまいます。その咬む力は凄まじく、一瞬で僕の鶏が真っ二つになってしまったところを目撃したことがあります。

害獣の話はここまでにしましょう。僕も村民として作物をや家禽を育てているため、害獣の話になると個人的な恨みつらみでどうしても長くなってしまいます(笑)

害獣というのは学習能力が高いことが多いです。少なくとも人間の動きをしっかりと観察していて、それに対応してきます。ヒゲイノシシはその中でも特に頭が良いです。カニクイザルがランブータンなどの果物を食べていればそれに付いて来ますし、ヒモ罠も一度察知されればもう効果がありません。時にはほかの個体と連携を取りながら作物を荒らしに来ます。

嗅覚も抜きんでています。苗が掘り返されると書きましたが、試しに苗を植えずに穴だけ掘って元通りに戻してみたことがありますが、それもしっかり掘り返されます。ドラム缶で囲ったバナナの苗なんかも難なく見つけてしまいます。但し、匂いが流れてしまうのか、強い雨の前に植えるといじられないことが多いです。鼻ばかりに頼っているマレーグマなどとは違い、聴覚や視力もそれなりにいいです。

場所によっては激減しているヒゲイノシシの仲間がなぜここまで害獣となっているのでしょうか。日本でも害獣ですがここまでではないですよね。

第一に、他民族なサバ州ですが、ダガット村を含むサバ州東海岸の多くの村はイスラム教徒の民族が多数派です。彼らは豚肉を禁忌としている為、イノシシ肉もまた汚物のような扱いを受けます。これらハラムの肉は売ることすら禁忌であるため、誰も狩ろうとはしません。例え害獣として殺されてもそのまま放置されるか川に流されます。狩猟圧がかかっているスイロクとは違い、まったく狩猟圧がかかっていないのです。これがシカよりも多産なイノシシで起きるとどうなるでしょう。

ヒゲイノシシの子供。ウリ坊のような模様はありません。

第二に、アブラヤシプランテーションの増加も挙げられると思います。急速な農地発展により生息地は大幅に減りました。しかしながら保護区から出ればいつでもこの栄養豊富なアブラヤシの収穫残滓を食べることができます。多くの個体がプランテーションわきに住み着き、行ったり来たりして生活しています。このアブラヤシの実はとても栄養豊富です。僕の愛犬ブッチーも大好物で、フルーティーな香りの果肉だけではなく、固い殻に包まれた胚乳も食べてしまいます。茹でると油っこい芋のようで美味しいです。

第三に、捕食者含む他の動物の減少も関係しているでしょう。先ずウンピョウは生息地の減少で大幅に数を減らしました。捕食者として忘れちゃいけないのがイリエワニで、ダガット村ではイリエワニが住むタビン川から真っ二つになったヒゲイノシシの死体が流れてきます。食べきれないのか飽きるのか、結構高頻度で流れてきます。そうなると川で洗濯や沐浴をする村民はとても嫌がります。ダガット村があるのは下流域なので、死体が潮汐で行ったり来たりして数日留まることもあるのです。そんなイリエワニは現在禁止されていますが、以前は皮革の為に狩られていました。人間はどうでしょうか?少なくともイスラム化する前は狩っていたでしょう。食べなくなったのはここ数百年の話です。

数を減らしたのは捕食者だけではありません。食料や生息域を取りあうライバルの多くも数を減らしました。

そんなこんなで現在は保護区もその脇もイノシシで溢れてしまっています。森に入ってもイノシシの新しい足跡だらけ、調査プロジェクトでカメラトラップを仕掛けてもヒゲイノシシの顔ばかり。

村の裏でのテスト設置時

頭が良くて嗅覚も良く、雑食性なヒゲイノシシの増加、その影響は計り知れません。キナバタンガンではカニクイザルの増加によってヒロハシなどの鳥が減少しているそうですが、ここタビンではキジの仲間が減少しているように思えます。実際彼らは村のニワトリを食料として認識していますから、森の中でもそうでしょう。林床に卵を産む種類なんかは更に生き残るのが大変だと思います。

このヒゲイノシシの増加、保護区を管理するのであれば早急に対処すべきだと思いますが、様々な問題があり実現には程遠いのが現状です。

さて、今日は一番身近なヒゲイノシシについて書いてみました。彼らは今でこそ適応して爆発的に増えていますが、それも結局のところ人間活動の結果だと思います。特にイノシシの仲間は激減している地域と激増している地域の対比から人間との関わりが見えてきます。

うちは愛犬ブッチー君のおかげで家から半径100mくらいはイノシシ被害から守られている空間となりました。これからこの範囲をどう増やしていくかが僕にとってのこのヒゲイノシシとともに生きていく上での課題となりそうです。

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