ボルネオ島、ジャングルの中にあるダガット村での生活・文化・生き物などについて書いてみます

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マレーシア最後の飼育下スマトラサイのオス、タムが死亡

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先日、 マレーシアでの飼育下最後のスマトラサイのオス、タムが亡くなりました。容態が悪くなってからは早かったようです。一昨年死亡したメスのプントゥンに続いての訃報。これでマレーシアに残る飼育下のスマトラサイは、2014年にダナムバレーで捕獲されたメスのイマン1頭になってしまいました。

僕もタムには一度だけ会ったことがあります。長く飼育されていたとはいえ、やはり警戒心は強く、特に新しい人の匂いには敏感に反応していました。亡くなってしまったのはとても残念です。

タムは2008年に村からもそう遠くないクルタムで捕獲されたオスです。2000年代以降に飼育下に居たスマトラサイは4頭でしたが、タムは唯一のオスでした。残りの3頭は全てメスで、2014年に死亡した盲目のグルゴ、2017年に死亡した足が切れてしまっているプントゥン、そして今残っているイマンです。

人工繁殖も試みられましたが、長年異性と接触がなかった為、タムは精子が極端に少なく、また他のメスたちも子宮に膿疱があり、うまくいきませんでした。タムの精子は人工繁殖や将来の復元プロジェクトのために保管されています。

2011年にプントゥンが捕獲されたタビン西部から遠く、タビン北東部に位置するダガット村では2004年に正式にスマトラサイの足跡が確認されており、マレーシアにおける野生絶滅宣言が発された2015年以降も未確認ですが村民により目撃の情報はあります。

2017年から1年半、ダガット村、野生生物局、現地NGOであるBCTが協力し、スマトラサイの調査プロジェクトを実施しましたが、広大な保護区に比べ、資金が不十分で十分な調査は行えず、発見には至りませんでした。今は再開の為の資金調達が必要で休止中です。

スマトラサイ調査に参加するダガット村の若者

密猟などしたためしがないのに、近くに住んでいるというだけで密猟記事をでっちあげられ、知らないうちにレッテルを貼られてしまったダガット村村民にとって、このプロジェクトは名誉にかかわるものです。密猟が多かった時代の1970年から1980年代は大規模伐採真っただ中。生息域がかく乱され、必然的に目撃されるようになったスマトラサイは、当時一大事業だった伐採と木材加工に入った労働者たちや、それ以前から狩りを主業としていた民族によって狩られ、華僑によって売られていきました。それは時代の流れであり、一つのコミュニティだけが名指しで糾弾されていいようなものでは決してありません。まして無実なのに。

スマトラサイを狩った民族や伐採労働者が悪いのか、それを狩らせ転売した華僑が悪いのか、大規模伐採を実施した事業者が悪いのか、許可を出した現地政府が悪いのか。その陰で経済成長の為に東南アジアの伐採を促進し、その森を食ってきたのは日本人の我々です。犯人探し程意味のないものはないと思います。人類の業と捉え、次に繋げるべきだと僕は思います。
生息域が減少し森が分断され、個体数が減ったうえでさらに密猟が行われてしまったことは、もともと広いテリトリーを巡回し、繁殖できる期間がそう長くはない上、繁殖できる数も少ないスマトラサイにとっては不運そのものでした。ここまで数が減ってしまっては自然下での繁殖は望みも薄く、プランテーション労働者による密猟から守ることも難しいです。 また、野生個体が生きていたとしても繁殖可能な期間は限りがある為、何とか早期に発見したいという思いでいます。スマトラサイはマレーシアに残るイマンの他、アメリカとインドネシアに飼育下の個体がおり、インドネシアでは野生個体の捕獲プロジェクトが行われています。絶滅宣言が出され望みが失われてしまったマレーシアでも、地元コミュニティを信じ、何とか再発見に向け活動をしていきたいものです。それが森を食い物にしてしまった我々にできる、タム、プントゥン、グルゴ、そして絶滅に向け前進の止まらないスマトラサイという種そのものへの、唯一の手向けではないでしょうか。

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